コオロギの鳴き声は”口説き”と”脅す”ための命がけの歌

秋の夜、草むらから「リーンリーン」「コロコロコロ」と虫たちの澄んだ音色が響いてきます。

スズムシ、マツムシ、スズムシに似たカンタンなど、これら秋の名演奏家たちは全てコオロギの仲間です。

日本には約50種類のコオロギが生息していますが、その音色は種類によって全部異なります。

コオロギの鳴き声は、同じ種類の仲間同士が情報を伝達するための音の信号なのです。

基本的には、オスがメスを呼ぶために鳴くのですが、同じ種類のコオロギでも、状況によって何通りかの鳴き方があります。

私たちがよく耳にするのは、音量があり、遠くまでよく響く、”よび鳴き”で、不特定多数のメスを引き寄せるのと同時に、他のオスとの距離を保つ機能があります。

さて、一匹のメスがオスの側に現れ、夜が明けてくると、鳴き声は囁くような”口説き鳴き”に変わります。

これで、メスを交尾に誘うのです。

もう一つが”脅し鳴き”で、邪魔なオスが紛れ込んだりすると「チ、チ、チ」と短く切ったような鳴き声で追い払うのです。

音による情報の伝達は、暗闇でも、石の下からでも発信でき、風に邪魔されることもないので、視覚や嗅覚による伝達に比べ多くのメリットがある反面、カエルや小鳥などの天敵に見つかりやすいという弱点があります。

このため、マツムシモドキ、カヤコオロギなどのように、コオロギのくせに鳴くのをやめた変わり者もいます。

これらのコオロギは、自分が止まっている草の葉や茎をゆすって、その振動で仲間に 情報を伝えます。

音の場合と同じように、振動のリズムは種類によって違うそうです。

こうしてみると、優雅で心地よく響く虫の鳴き声も、彼らにしてみればまさに”命がけの歌”なのです。