カラスの肉の前代未聞の恐るべき味。
あまり食欲の湧かない食材があります。
昆虫や海洋深層部に生息する魚類もその類です。
鳥類ではさしずめカラスはその筆頭に挙げられるでしょう。
何しろ不気味な声と真っ黒な外見、鋭いくちばしを想像するだけで、食べてみたいと思わせる要素は皆無です。
しかし、このカラスを食した人がいます。
自ら「地球上の奇食珍食をしてきた味覚人飛行物体」と称する小泉武夫東京農業大学名誉教授です。
あるよき、東北の湯治場に小泉教授が3日ほど滞在しました。
すると、カラスがやたらと飛んでいます。
そこで、小泉教授が湯治場の主人に「カラスの肉はうまいのかね」と聞いたことが、事の始まりになりました。
主人は、自分で料理して食べたことがありました。
「ろうそく焼き」という名前さえあります。
「ろうそく」とは、灯明の「蠟燭」のことです。
主人は小泉教授の要請を受けて、翌日の夕方にカラスを手にぶら下げ、湯治場の裏の空き地で、さっそく調理をし始めました。
まずカラスの羽をむしり取り、内臓を取り去ります。
皮膚はぶつぶつして見た目はよくありませんが、肉は結構きれいな赤みがあります。
大きめのまな板に胸肉、腿肉、手羽肉をのせて根気よくペースト状になるまで叩きます。
そこにニンニクの大玉を2個加えてさらに肉がべとべとになるまで叩きます。
次に肉全体量の4分の1ほどの味噌を加え、小麦粉をパラパラと加えてさらに叩いていきます。
さらにかなりの七味唐辛子をまぶします。
そしてこのペースト状の肉を30センチほどの竹串に竹輪状にみ巻きつけ、焚き火の周囲に5~6本立ててじっくり焼きます。
「ろうそく焼き」の名はここから来ています。
これを食べた小泉教授の感想は、以下の通りです。
「悪臭などせず、瞬時にうまい!と思った。鶏のつくね焼きと何ら変わりない気がした」と出だしはよかったです。
噛みしめていくほどカラス肉のうま味と味噌の濃い味が一体となります。
ところが、肉を呑み込む寸前になって、かつてない奇妙な臭みのためどうしても呑み下せなくなってしまうのです。
この臭みは、仏壇やお墓に供える線香の臭いでした。
呑み下せなばその臭いは直接鼻を刺激して、たちまちウッときて吐き出したくなる、とのことです。
小泉教授は湯治場の主人は初めに「いつまでも頭に残る臭さ」と言っていた意味がようやく理解できたのです。
同じ煙臭でもカラス肉は燻製やハムとは全く別物で、体が拒絶反応を起こすほどマズイもののようです。
[surfing_su_box_ex title="カラス食"]カラスを食べることはそれほど珍しいことではない。ジビエ料理で用いることもある。茨城県の一部地域では、第二次世界大戦後からカラスが食用されている。[/surfing_su_box_ex]
[surfing_su_box_ex title="湯治場"]長期間滞在して、温泉療養するために行く温泉場。[/surfing_su_box_ex]