がんを切らずに治す「放射線療法」とは?

がんの治療法として、「外科手術」「放射線療法」「化学療法」の三大療法が知られています。

そのうち日本のがん治療は長らく外科手術を中心に行われ、先進国の中でも放射線療法は遅れているといわれています。

放射線療法は専門医の数も圧倒的に少なく、医師の間でさえ放射線療法の有効性が十分に知られていないといいます。

 

日本人はがんが見つかると「手術ですっぽり取り除いてほしい」と希望する傾向が強いです。

しかし、がん細胞はタンポポの綿毛のように、全身に飛び散っている場合があります。

放射線治療や化学療法は、そんな目に見えないがんも叩くことができます。

 

放射線は、がん細胞が分裂して増えるために必要な遺伝子を殺してそれ以上増えないようにしたり、がん細胞が新しい細胞に入れ替わるときに脱落させてがん細胞を減らそうとしたりする作用があります。

このような作用を利用するので、放射線治療は外科手術のようにがんのある臓器を切除する必要がありません。

臓器をそのまま残せるので、その働きをがんになる前と同じようにしておけます。

手術なら入院が不可欠な症例でも、放射線なら外来通院で治療ができる場合もあります。

 

近年、乳がん治療などの分野では、放射線治療の有効性が定着してきました。

1980年代前半まで乳がんの手術といえば乳房を全摘出する方法が当たり前でした。

これに対して最近は、がんが発生している部分だけ切除して、後は放射線治療や化学療法を併用して乳房を残す「乳房温存療法」の普及がめざましいです。

この療法が適応となる症例では、切除手術と比較しても治療後の5年生存率が変わらないことが分かっています。

現在では乳がん治療の半分以上にこの乳房温存法が使われるようになってきました。

また、根治することが難しい進行がんの場合でも、腫瘍による痛みや出血を抑えてQOLを向上させる緩和ケアとして放射線治療が用いられる場合もあります。

 

放射線治療はがん治療のための単独で行われることもありますが、乳がんの例などのように、化学療法や手術などと併用されることが多いです。

手術をしてもすでにがん細胞がタンポポの種のようにまわりに飛んでいるかもしれないので、それを放射線抗がん剤で叩くのです。

もちろん抗がん剤や分子標的薬など、がんの化学療法と併用することで、お互いの治療効果をさらに高め合うことが期待されます。

 

放射線治療には、からだ外から放射線を当てる「外部照射」と、体の内側に放射性物質を入れたカプセルや放射線を持った針などを入れて、そこからがんに放射線を当てる「内部照射」に分けられます。

最近では、「増感剤」というものを使って放射線療法の治療効果をアップする方法も開発されています。

[surfing_su_box_ex title="乳房温存療法"]乳がんに対して、がん細胞とその周辺を部分的に切除した後に放射線を照射する治療法。適応となるかどうかは、がんの大きさやバランスなどから検討される。現在、がんが小さい場合の第一選択になっている。[/surfing_su_box_ex]

[surfing_su_box_ex title="QOL"](Quality of Life)生活の質。医療的な側面で語られる場合、いたずらな延命治療や、ダメージが激しい治療を継続することによって患者が自ら「理想とする生き方」や「人間らしい生き方」を営めないことへの問題提起として使われる。患者が自身の尊厳を保ち続けられるような生活の実現を指して「QOLを維持する、向上させる」などという。[/surfing_su_box_ex]

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